第8章『二度目の任務と小さな守護者』

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「だったら…ーー」 聞いてくれる?とニルは再び問う。その瞳に悲哀と少しの喜びを宿して。 「私ね、実は次女なんだ。…今じゃ…次期当主、なんて言われてるけど……ホントは、お兄ちゃんが一人、いたんだ」 ーーーーそれは遠い遠い記憶。幾度も忘れようとし、その度に慟哭の声と涙で枕を濡らした記憶。 それは、今から約10年前のマキュリー家で起きた。 首都(エルハ)より南西の少し離れた丘陵地帯の大きな湖の側に、マキュリー家の屋敷は在る。 五代貴族というだけあり、豪華絢爛な装飾に彩られた屋敷の広い庭園にはマキュリー家当主、イルイ=マキュリーが許可を出したこともあり、日々様々な人々が出入りしている。 「待って……お兄ちゃん……!」 「ほらニル、こっちだ」 暖かい日差しが優しく降り注ぐ庭園で、茶色の髪に黒い瞳の男の子と当時六歳のニルが元気に駆けていた。この時、ニルの目はまだ両目が蒼だった。 「ティル!こっちに来なさい」 と、周りの暖かい視線の中暫く楽しそうに駆け回っていた二人だったが、屋敷から現れた一人の初老の男性が男の子、ティルを呼び、中断される。 「ごめんなニル…また後でな」 「うん…!待ってる……!」 少し寂しげなニルの頭を優しく撫で、ティルは男性ーーマキュリー家に婿入りしてきた、名をゲイツというーーの元へ足早に向かっていった。 .
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