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「お兄ちゃん…おそいなぁ…」
日が沈み、屋敷の扉と門が閉められ、夕食が済んでもティルと父ゲイツは戻っては来なかった。母イルイに訊いてもわからない、と答えられてしまった。六歳のニルはその言葉に潜む感情を感じ取ることはできず、大人しく部屋でまっていたのだ。
「ーー~~~……!!~~ーー……!」
「…ッ!?な……なに……!?」
ふと、耳の端に捉えた奇妙な音にビクリと肩を震わせる。
その音は階下から。いけないとわかっていたが、ニルは胸を支配する謎の不安感と焦燥感に勝てず、部屋を出て、音がした方へ歩いていくーー否、歩いていって、しまった。
※
昼間とは違い、少しの明かりしかない廊下は小さなニルには怖く、倍ほども長く感じるが、心に巣くう恐怖よりも、そこに兄がいるかもしれないという期待の方が勝ち、なんとかエントランスに辿り着く、と。
普段は閉め切られ、入ることを許されていない扉から、少しの明かりが漏れていた。それと、誰かの話し声が。
(お兄ちゃんかな……?)
ゆっくりと巨大な階段を降り、入り口から東側にある小さな扉まで歩く。
そして、ニルは視てしまう。己の運命を狂わせる光景を。
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