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「…ふん。やはりお前には宿らなかったか…?」
ニルが覗き込んだ時、見えたのは男の背中。それが父であると気付くまでに数瞬を要した。それほどに、今のゲイツからは異様な雰囲気が漂っていた。
手には馬を打つ鞭が握られ、ソレからは赤い液体が滴っている。
「……ーーーーッ」
父の視線の先、背中て見えないものの、確かに誰かの声がする。囁くような大きさの、掠れ、嗄れた声だ。
ニルがいる扉からでは聞き取れなかったが、何かを訴えている声。
「……ん?」
不意に、ニルの気配を感じたゲイツが振り返る。
ニルは隠れる暇もなく、ビクリと肩を震わせるだけで、その場から動けなかった。
ニルの姿を見つけたゲイツはニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、身体をずらし、嗤う。
「クク……残念だったな。時間切れだ…『小僧』」
「…ッ!?お兄ちゃん!!」
歪んだ嗤いを浮かべるゲイツの視線の先には、首と両手両足に鉄の輪を嵌められ、体中を紅に染めたティルが驚いた表情で座り込んでいた。
「…ニ……ル……!?」
「ふん、丁度いいだろう。小僧、よく見ておけ」
「…や…めろ…ッ!!」
ゲイツの言葉の真意を読み取ったティルは体を乗り出すが、鎖のせいで上手く体を動かせない。
その間にも、ゲイツはニルを部屋に引き込み、その頭に手を置く。ニルはその行為の意味が判らず、不思議そうな顔でゲイツを見る。
「貴様とは違い、才能に恵まれた娘だ。さぞかしいい結果を残すだろうな」
「や…めろ…ォ…ォ!!!」
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