第8章『二度目の任務と小さな守護者』

55/59
前へ
/202ページ
次へ
「…ふん。やはりお前には宿らなかったか…?」 ニルが覗き込んだ時、見えたのは男の背中。それが父であると気付くまでに数瞬を要した。それほどに、今のゲイツからは異様な雰囲気が漂っていた。 手には馬を打つ鞭が握られ、ソレからは赤い液体が滴っている。 「……ーーーーッ」 父の視線の先、背中て見えないものの、確かに誰かの声がする。囁くような大きさの、掠れ、嗄れた声だ。 ニルがいる扉からでは聞き取れなかったが、何かを訴えている声。 「……ん?」 不意に、ニルの気配を感じたゲイツが振り返る。 ニルは隠れる暇もなく、ビクリと肩を震わせるだけで、その場から動けなかった。 ニルの姿を見つけたゲイツはニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、身体をずらし、嗤う。 「クク……残念だったな。時間切れだ…『小僧』」 「…ッ!?お兄ちゃん!!」 歪んだ嗤いを浮かべるゲイツの視線の先には、首と両手両足に鉄の輪を嵌められ、体中を紅に染めたティルが驚いた表情で座り込んでいた。 「…ニ……ル……!?」 「ふん、丁度いいだろう。小僧、よく見ておけ」 「…や…めろ…ッ!!」 ゲイツの言葉の真意を読み取ったティルは体を乗り出すが、鎖のせいで上手く体を動かせない。 その間にも、ゲイツはニルを部屋に引き込み、その頭に手を置く。ニルはその行為の意味が判らず、不思議そうな顔でゲイツを見る。 「貴様とは違い、才能に恵まれた娘だ。さぞかしいい結果を残すだろうな」 「や…めろ…ォ…ォ!!!」 .
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3362人が本棚に入れています
本棚に追加