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『無礼だぞー調停者ー、ワタシを知ってるだろう。いい加減ちゃんと呼べー』
「ハイネです。確かに私は知っていますが、まず宿主であるニルさんに名を名乗らないアナタこそ無礼なのでは?」
ニヤリ、と普段なら見せない皮肉気な笑いを見せたハイネはぐぐぐ、と唸る『死神』から視線を外し、話についていけず首を傾げているニルに向き直る。
「さて、ニルさん。先程の話の続きなんですが、貴女のお兄さんは貴女が魔眼を手にした後、どこに?」
「---お兄ちゃんは、私が目を覚ましたらいなくなってて…お父さんもお母さんも、お兄ちゃんなんて最初からいなかったみたいにしてて…それで…それ、で……」
『彼らは悪くないよ主、勿論主も。
……泣かないで』
言葉を詰まらせ、紅の瞳を涙で濡らしたニル。
思い出したのは兄が消えた翌日、何事もなかったかのように、父も、母も、庭園にいつも訪れていた人々も、兄専属だった筈のメイドすらも普段通り生活し、笑い、語り合う--幼いニルにはその光景がどのように写ったのか。それを唯一人知る『死神』はニルに言葉をかけるが、魔力で構成され実体を持たない為触れることはできない。
「……すみません、軽率でした。ですがニルさん。何故貴女だけが覚えていたと思いますか?」
「……わたし、だけ……?」
「そう。ラルフもアルもフィンもミーシャさんも、誰も覚えていない貴女の兄のことを、貴女だけは覚えていた。何故でしょうか」
考えもしなかったのか、ニルの表情は何かに気付いたかのように強張り、俯く。
「それ、は---」
「気付いているでしょう?だって今貴女の目の前には、それを些事として行える存在がいるのだから」
優しく、諭すようなハイネの言葉に地面から『死神』に視線を移したニルは問う。
「『死神』……さんが……?」
『ええ。ヤツらの思惑ならば主には悪魔の力が宿る予定だったのだけれど主には"私の血"が流れていた……『死痕』を顕す、私の血が』
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