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人型、というだけであるため表現は窺えないが、雰囲気は何処か嬉しげであり声に先ほどまでの真剣さは含まれていない。
「ええ。ゆっくり準備していてください」
軽い言葉を交わした両者は互いに頷き、ニルヴァーナはその場に座り込み、ハイネは未だ記憶に思考が埋没しているニルの肩を叩き、意識を向けさせる。
「ニルさん、その記憶は思い出そうとして思い出せるものではありません。それよりも、直ぐに解決すべき事があるんです」
「すぐ……に?」
ハイネの真剣な眼に何かを感じたのか、ニルは制服の内ポケットから一枚の紙を取り出す。入学式の日にハイネから渡された魔法陣が画かれた符だ。幾つもの図形と文字が重なり合った幾何学模様は今にも消えてしまいそうな淡い白光を放っている。
「入学式にお渡ししたその符には抑制と貯蓄、拡散の意味を込めてあります。ですがその符の効果はアナタが死痕を知覚するまでなんです」
だからもう効果がない、という言葉を待たずに、魔法陣は光を失い、符は端から白い光に変わっていき、ハイネの身体に吸い込まれるように消えていった。
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