第9章『発現』

10/12
前へ
/202ページ
次へ
不思議そうなニルの一言は当然で、今までいつ発動してもおかしくない状況、つまり待機状態だったのだから。 発動しなかった理由は簡単で、ニルヴァーナが内側から抑えていたからである。 『抑えていたといっても主はつい最近一度魔眼の力を使ったけどね』 「……え?……私……いつ?」 「ユグノー森林で、ですね?」 ニルヴァーナに答えを確認するハイネの言葉でニルは漸く思い至る。 『ガルンに襲われたとき、あのままだと主の友人--ラルフ、だったか?は死んでいたのさ。それを止めたのが主。ワタシの抑制を無理矢理振り切って使ったから気を失っちゃったけど』 そう。いくら傷を癒やす魔術や法術があったとしても即死級の傷を治すのは簡単ではない。細胞を活性化させて治す法術の弱点とも言えるそれは、細胞の活性化にはある程度の時間と患者の体力が必要であるため、あまりにも傷が酷い場合は治癒法術を使えない。 「やはりラルフがあの傷で生きていられたのはそういうことでしたか」 リューディアの治癒法術で直ぐに治療はしたものの、傷は深く、内臓まで切り裂かれていた。あの法術はかけられる側の体力が少なすぎると発動すらしないのでその時は単に間に合ったと安堵したのをハイネは覚えていた。 「……でも……私覚えてないよ?」 『主は無意識だったからねー。友達がやられた瞬間に一瞬発動して直ぐに倒れちゃったし』 それでも死の時間を数十秒延ばしたことでラルフは生きられたのだから僥倖といったところだろう。 .
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3362人が本棚に入れています
本棚に追加