第6章『魔王と英雄と過去』

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とある遺跡。その深層の祭壇にあたる場所に幾つかの人影が向かい合って立っている。 そしてその祭壇の中心には蒼い水晶があり、水晶の中には長い紫の髪をした男性が膝を抱えるようにして浮いている。 「…本当にいいんですか?」 人影の一つ、ハイネが目の前のハイネより頭二つ分程背が低い朱髪をツインテールにしている少女にこれが最後、という風に問い掛ける。 「…いい。主(アルジ)は…まだ…目覚めては……いけない…の…だろう…?」 少女は淡々と答え、蒼い水晶に触れる。 「…そう…ですね。今更聞くことではないですね。なら、この遺跡には千の魔術トラップと百の隠蔽法術を仕掛け、私、師匠、そしてアイラ、貴女とセリナ。四名それぞれが封印を解除できる呪文(スペル)を一行づつ体に刻む。それでよろしいですね?」 ハイネは自身から少し離れた位置にいるエルヴェと朱髪の少女アイラ、の順に問いかけ、エルヴェとアイラは無言で頷く。 そしてセリナ、と呼ばれた短い金髪、碧(ミドリ)の瞳の、ハイネと同年代程度に見える少女はただ悲しげにジッと水晶を見つめ、右手で水晶に触れたまま動かない。が、ほんの僅かに首が縦に動いたことで、肯定したようだ。 「では…『ディバ…………ッ!?」 ハイネが魔術名を言おうとした瞬間、遺跡に振動が走り、天井が欠けたことによって薄暗かった空間に細い光が差し込む。 「…チッ!小僧、さっさと封印済ましちまえ!」 無造作に広げていた肩甲骨の下辺りまでの銀髪を後頭部で一つに縛り、黒の目を紅(クレナイ)に輝かせてエルヴェはそこから消えた。 「…仕方ありません。師匠抜きで封印をします。各自右腕の袖を捲って、水晶に手をついてください」
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