過去

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「真奈美が帰るから誰か同じ方向の人、送ってって。」 帰りが遅くなる学祭の準備期間中、それは当たり前の会話である。 「じゃあ、俺が送ってくわ。」 何も考えず送っていっていた。 真奈美と話すようになったのはそれからだったと思う。 学祭の話をしたり、お互いの部活の話をしながら帰るうちに二人の距離は急速に縮まっていった。 いつしか二人は何でも話せる間柄になっていった。 楽しかった学祭も成功のまま終わり、その夜は砂浜で打ち上げが行われた。 パチンコ店の駐車場から少し下がったところにある砂浜である。 みんなで木を拾い集め、焚き火をする。 波の音、パチパチと音を立てて燃える焚き火。 誰もが学祭の成功に顔をほころばせている。 波の音、笑い声、焚き火 の淡い光。 「弘樹まだ帰らないの?」 そう言ってきたのは真奈美だった。 焚き火に照らされる真奈美はいつも以上に綺麗に見えた。 いいよと真奈美に答えクラスメートに帰ることを伝え砂浜を出る。 砂浜から少し高い位置にパチンコ店の駐車場があり、はしごが掛けてある。 僕は先に昇り、真奈美を待つ。 少し遠くでは焚き火にあたりながら打ち上げは続いている。 真奈美がはしごを昇ってくる。 僕は手を差しのばす。 柔らかい真奈美の手。 僕は駐車場への草むらの中、手を引き歩く。 沈黙、遠くに聞こえる打ち上げの声、波の音。 「弘樹、手繋いだままじゃチャリ乗れないぜ。」 ニヤニヤしている友達。 はっと気づき手を離す。 「もう大丈夫か。」 微かな明かりの中、うんとうなずく真奈美。 学祭も終わり夏休み前のおまけのような授業が終わる。 夏休み、後輩に秋季大会出場の助っ人を頼まれるまで真奈美と夏期講習に通っていた。 講義の合間には真奈美とよく喫茶店で勉強したり、話したりしていた。
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