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「弘樹!やっと話せたね。」
懐かしい声を聞き僕は現実に戻る。
十二月二十九日の同期会。
あの時と同じ様にしんしんと雪が降る中、思い出の中より綺麗になっている真奈美がいる。
喫茶店でも行ってゆっくり話そうよと言う真奈美の誘いに応じる。
会話の邪魔にならない程度の音楽、柔らかい照明。
流れてくる音楽以外は雰囲気も変わらない店内。
「元気だった?」
三年ぶりに話したというのに何も違和感は感じない。
真奈美は短大を卒業しこっちで働いていると言うことだった。
話題のニュースの話や移り変わっていく話をしていても笑えるポイントは変わっていなかった。
そう、まるで最初の一言で二人のスイッチが入り、三年という時間と距離が一気に縮んでいく。
楽しい一日が最高の再会で幕を閉じようとしている。
「忘れ物あるの覚えてる?」
そんな電話が真奈美から来たのは年が明けて数日たってからだった。
真奈美の部屋で話しながらお互いの三年間を埋めていく。
恋愛話でお互いがあのあときちんと付き合えていないことを知ると沈黙が訪れる。
外はしんしんと降る雪。
今更忘れ物をと言うには二時間というのは不自然である。
結局僕は思いだしたように本を取りだし真奈美はCDを返す。
「じゃあ、帰るわ。」
外に出る。一息ついてから僕は振り返る。
「真奈美さえ良ければ、あの時の答え、今言うよ。・・・あんな風になりたい。」
沈黙、しんしんと降る雪、頬に残る涙のあとが光る。
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