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「太一さーん、お茶にしましょうよ」
洋香(ようか)は庭で紫陽花の手入れをする太一の元にやって来て声をかけた。
その声に太一は振り向き微笑む。手には紫陽花の切り花を数本持っていた。
6月の秦野家は敷地内全体、玄関から道路に出る為の通路を残して、赤や青に紫の紫陽花が一面咲き乱れる。
近所では『紫陽花の家』と呼ばれるほどの美しさだ。
太一が家に入ろうとすると
「紫陽花、とても綺麗ですねぇ」
と隣人が声をかけてきた。
「ええ、この人は紫陽花が大好きですから」
洋香が幸福そうに答える。
「部屋に飾ろうと思いましてね。よければ持って行かれませんか?」
太一もニコニコしながら隣人に紫陽花の切り花を差し出した。
「あらぁ、いただいてもいいの?」
「もちろん。来年も花を咲かせるためには、こうして今年咲いた茎を切らないといけないんです。
すると来年、また美しい紫陽花が咲くんですよ」
「まあ、大変ですね」
「いえ、花たちの為ですから」
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