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ちょきん ちょきん。
隣人が去ると、太一は更に紫陽花を切ってから部屋に入り花瓶にいけた。
「本当に綺麗ねぇ」
「ああ、まるで君のようだ」
「まあ、太一さんったら」
洋香は少女の様にふっくらとした頬を赤らめた。
それはまるで白とピンクの綿菓子が混じりあうような淡い色だ。
太一は自分の頬をさわり、張りもない皺だらけの肌を確かめながら言った。
「君が誰かに取られないか、とても心配だよ」
「ふふふふ。私は15年前にあなたと結婚して――……「あの日」からあなたしかいなわ」
「本当に?」
「本当よ。そういう太一さんこそ。何もやましいこと、ないでしょうねぇ?」
洋香が小悪魔っぽく笑う。
「僕がやましいこと? あるわけないよ。ははは」
「本当かしら?」
「本当さ――どれだけ僕が洋香りを愛しているか」
太一はお茶を一口飲むと、懐かしい映像を見る様に15年前のことを語りだした。
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