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「…ねぇ、君はそこで何をしているのかな?」
今にも高い橋の上から飛び降りようとしていた私の耳に、ふと男の人の声が聞こえた。ふと顔をあげれば、にこやかに笑ってこっちを見ている人がいた。
……誰?
「見てわからない?あたし今から死ぬの。邪魔しないで…」
「まだそんなにも幼い君が、かい?」
「そうよ。何か文句があるの…?」
冷たい、もうすでに死人のような虚ろな瞳が相手を見据えれば、相手はわざとらしく笑った。
「じゃあ、質問を変えようか。どうして君は死ぬの?」
「じゃあ、なんで貴方はあたしにそんなこと聞くの…?」
延々と、そんな馬鹿げた質問をお互い繰り返せば繰り返すほどあたしはイライラさせられた。
どうして?
どうしてこの人はそんなに『私』なんてちっぽけな存在に耳を傾けるの?何故、何故…?
「ねぇ、君は―…「うるさいッ!もううるさいうるさいうるさいッ!!あんたみたいな奴にわかるもんか!あたしみたいな、こんなストリートチルドレンの気持ちがわかってたまるか…ッ!!」
あたしが大声でヒステリーを起こすなり、相手はただ押し黙ってあたしの話を聞いた。
「あったい家があって、毎日食事にも困らないような暮らしをしているあんたみたいな人間にッあたし達ストリートチルドレンの痛みがわかるわけなんてないッ」
ストリートチルドレン=【捨て子】
今のこの世代では、ストリートチルドレンなんて珍しいものじゃない。生きていく糧が見出だせなかった子供達は、みんな惨めに、たった独りきりで死んで行くんだ…。
だから…ッ
「うぇッ…ぁ、くっ……」
鳴咽が殺せなかった。
涙が止められなかった。
あたしは独りぼっちなの
盗んだり、悪いことをしなきゃ、生きてはいけないの…
誰も守ってくれないの…
「…泣かないでいいよ。もう今君は、此処で死んだよ。ね、だから生まれ変わろう。私と、一緒に……私が、君を必要としてあげる。『祥子』…?」
「ぅ、あぁあぁッ」
あの時あたしを抱き留めてくれた大きな手を、あたしは一生忘れない。
貴方がくれた『祥子』って名前を誇りに生きていく。
あたしの命は、一生貴方のもの。だから、あたしは―…貴方の手を取った事を絶対に後悔なんかしない。
しないんだよ……
ゾイド様………
to be next.
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