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僕は死後の世界を信じていなかった。ありきたりだが、天国や地獄に行くだなんて馬鹿らしい。人が死んだらそこに残るのはただの肉の塊だ、死ねばそこで全てが終わりと、そう思っていたのである。だって心や精神だとか、そんなの嘘くさいじゃないか。
「ああ、目、覚めたか?」
僕は神様や仏様を信じていなかった。僕はいつだって自分の目に入るモノしか信じてこなかったのである。
「……おい、聞いてんのか?」
どうやら僕は仰向けに寝転がっていたらしい。恐る恐る目を開ければそこは、僕の部屋以上に何もない真っ白な空間だった。天井も壁もない。だだっ広い、広いだけの空間。
いや、一つだけ訂正。
そこには僕以外に、もう一人誰かが居た。
「あー、何だ? 声が出ないのか?」
目だけ動かして、その誰かを観察してみる。胡坐をかいたその人物、偉そうな、若干荒っぽい口調と中性的な声からして男だと思っていたのだが。線が細く、大き目の胸を持っている。つまりは女だった。
そんで、なんか、変。
最初に目を引いたのは異様に長い金髪。
って言うか、こいつ生まれてから一度も髪切った事ないんじゃないのか? けど、その割りには意外と枝毛とか少ないな。切れば楽だろうに。あー、うわ、髪の毛で顔殆ど隠れてるし。でも、所々から覗く肌は綺麗だ。白くて、透き通ってて。
……あー、んん。
服は、何だか普通だ。無地の黒いTシャツとジーンズ、だけ? 良く見たら靴下も靴も履いてない。
「ジロジロ見るな」
女が立ち上がる。
って、でかい。何センチあるんだろう、この人。百八十、いや、九十はあるか。
「ぐふ……」
お腹を踏まれた。油断し切っていたからすっごく痛い。
しばらくの間悶絶していると、女は僕の近くにしゃがみ込む。
「なんだ、喋れるんじゃないか」
「……痛いん、ですけど」
「気にするなよ、どうせお前死んでるんだし」
死んでる? 僕が?
「痛いって事は、生きてるって事じゃないんですか?」
「アホか。死んでても痛いもんは痛いんだよ」
――けらけらけら。
女は豪快に笑って、僕の近くに腰を下ろした。うあ、まだ笑ってる。
「あの、ここ、どこですか? 僕、学校に行きたいんですけど」
「はあ?」
人を小馬鹿にした風に聞き返さないで欲しい。僕は学生で、今は朝。学生である僕が遅刻しないよう学校に向かうのは自明の理だろう。
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