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「つまり、僕は死んでて、あなたは死神で、ここは死後の世界と言う訳ですね」
「……お前、物分かり良いのな」
「自分の目で見たものは信じる主義でして」
まだ夢の中にいる可能性も捨て切れないのだけど。
「じゃあ話の続きと行くか」
「僕が天国か地獄のどっちかに行くって話ですか?」
「あー、それなんだけどよ」
女は言い辛そうに頭を掻く。
「ちょっと待ってくんねーか?」
「待つ?」
「実は、天国も地獄も満員なんだわ」
「はい?」
思わず聞き返してしまった。
「……定員があるんですか?」
「いや、ない筈なんだけどよ。今は忙しいんだ。こないだどっかの国で紛争やら病気が流行っちまったらしくてな、例年よりもこっちに来る奴が多くて多くて」
「はあ、そりゃ大変ですね」
女は分かりやすく肩を落とした。
「大変ってもんじゃねーよ。天使も悪魔も神様も死神様も全然手が足りねーの。天国じゃあ入り口まで五時間待ち、長蛇の列出来てんだぜ、信じらんねーよ」
まるでテーマパークだ。いや、天国ならそこらの遊園地や地獄より人気もあるだろうから、仕方のない話ではありそう。
「ま、そのお陰でオレみたいな奴でも職にありつけるんだけどな」
「正社員、なんですか?」
女は力なく首を振る。
「アルバイト、良くて派遣社員ってところだ。正直、ピーク越えたらクビ切られそうで怖い」
死神も大変だ。何だか、生きてても死んでても苦労するのに変わりはなさそうだな。心底どうでも良くなってきた。
「……で、お前にはピークを過ぎるまで待ってもらいたい」
「別に構いませんけど、どのくらい待てば良いんですか?」
「半年ぐらい」
率直に言って、長い。
「地獄もそれぐらい待たなきゃ駄目なんですか?」
「いや、地獄の方が待ち時間長い。ここだけの話、血の池の詰まりが悪くなっちまってさ。ほら、血の池って人気だから。だから、修理に人手割かれちまって、地獄超やばいんだよ。天国からの応援で天使も血に浸かってんだぜ? きりきり舞い通り越してきりきりきりきり舞いぐらいなのよ」
へー、血の池って人気なんだって事しか頭に入らなかった。
「別に詰まってても良いんじゃないんですか?」
どうせ地獄じゃん。
「馬鹿、常に循環させとかないと汚れが溜まって変な菌が沸いちゃうだろ。病気になったらどーすんだ、地獄じゃ保険効かないんだからな」
どうやら、僕の常識は通用しないらしい。
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