スタート〈2〉

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「……半年待つしかないんですね」 「悪いな。天国じゃサービスするよう伝えとくからよ」  サービスってなんだろう。天使の輪っかとかくれるのかな。 「あの、ちなみにここで待つんですよね?」 「おう」 「時間の流れとか、どうなってるんですか?」 「向こう――ああ、お前の居た世界と変わらないぜ。時間ってのは基本的に不変だからな」 「ここ、何もないですよね」 「言ってみりゃ待合室みたいなもんだかんな」  まずい。退屈で死ぬ。娯楽に興味ない僕だけど、半年も何もしないでいるなんて。ここが地獄に思えてくるよ。 「餓死とかしないですよね?」 「馬鹿だろお前。死んでんだから死なねえよ」  トンデモ理論極まれり。 「でも、流石に半年ってのは」 「まあ、気持ちは分かるけどな。じゃあアレだ。生き返ってみるか?」 「え?」 「暇なんだろ? 生き返ったらどうだって聞いてんだ」  え? え? そ、そんなのってアリなのか? 「僕、助かるんですか?」  う。生にも死にも執着しないって言ってた奴の発言じゃないな。  でも、ここで半年も過ごすのは非生産的過ぎる。……生きてても、何かを生産する訳じゃないけど。 「助かるってのは気が早いけどよ。ま、あながち間違っちゃねーか」 「……?」 「どう説明すっかなー。うーん。面倒くせーなあ。やっぱ止めとくか」 「悪魔っ、人でなしっ」 「なんだそりゃ、誉め言葉にしかなんねーぞ?」  そうだった。アーパーだから忘れてたけど、この人死神なんだっけ。 「あ、あの。お願いします。教えてください。お礼ならしますから」 「はいはい分かったよ。オレも仕事だかんな。じゃ、これ見てくれ」  そう言うと、女は自分の馬鹿長い髪の毛に手を突っ込む。  何をしているんだろうと思っていたら、再び現れた彼女の手はノートを掴んでいた。ノートの表紙は、何だか珍しい虫と植物の写真で飾られている。  ……こういうノート、小学生の、しかも低学年の時に使っていた気がするぞ。 「あの、それなんですか?」 「これはノートデス」 「見れば分かります。どうしてノートなんですか?」 「お前、私の仕事知ってんだろ。ここにはな、オレが天国地獄に送ってきた人間がきちんとメモされてるんだよ。死因、前科、そいつの好きな食べ物だったり何でもな。すげえだろ? これは死神業界でのマストアイテムな訳よ。失くしたりしたら滅茶苦茶怒られるんだ」  死神って几帳面なんだな。
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