スタート〈2〉

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「あの、話が良く見えないのですけど」 「なんでだよっ!」  頭に軽い衝撃。痛みは全くと言って良いほどなかったが、ついつい手で箇所を擦ってしまう。どうやら僕は、女に丸めたノートで叩かれたらしい。  大切な物じゃなかったのかよ。 「これを見ればお前のデータだって丸分かりなんだぜ? どういう意味か分かるだろうが」  僕、こう見えて頭の巡りは悪くない筈なのだけど、死神やら死後の世界についてはさっぱりである。むしろ詳しい人がいたら教えてください。 「えーと、分かりません」 「ちっ、じゃあ説明すっかー。面倒だけど」  露骨に舌打ちするなー、この人。でも面倒とか言ってる割には説明してくれるし。良いや。 「オレの調べたところによるとだな、良いか、さっきも言ったがお前は車に轢かれて死んだんだ」  ぐさりと、心に何かが刺さる。 「家を出て、学校に向かう道で死んだ。角を曲がる時に左右の確認を怠ったから、飛び出した車に轢かれて死んだんだ。最低最悪だな、次号危篤だ、仕方ねえな」  死んだ死んだって連呼しないで欲しい。 「――だが、お前には罪がないんだ」 「……罪……?」 「ああ、これと言って悪い事をしてない。死んだ時の不注意は、不注意だから死んだって事だし。まあしゃあねえわな。ああ、でも親より先に死ぬのは減点だけどよ」  確かに、僕は何もしていない。罪、罪か。人を嫌ったりした事はあるけど、喧嘩をした事のない僕である。誰かを傷付けた訳でもなし、盗み、放火、サボり? いや、どれもした事ないなあ、やっぱり。  こう、客観的に見たら僕、面白味のない人間じゃないか。 「真面目っつーか、お前あんまり物事に興味ない奴だったらしいな。蟻の巣に水流し込んだり、好きな子の笛放課後に嘗め回したりしとけよ。弄り甲斐がねえじゃんか」 「ステレオな……。あの、僕に罪がなかったってのと、生き返るのとどういう関係があるんですか?」 「あー、そうそう、それな。うん、現世で良い行いをした人間はな、こっちじゃ優遇されるし、ある程度の融通が利くんだよ」  僕、宗教に入ってれば良かった。信じる者は救われるんだな、やっぱ。
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