特異への第一歩――〝邂逅〟

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普通のマンション、普通の住居、普通の一室。彼はそこに居た。 家具や壁、全体的に白で統一されており清潔感溢れる部屋。 そんな綺麗な白――にも拘わらず、近寄ってみても少しの汚れすら見えないようだ。余程神経質なのだろうか? そんな彼は、と言えば、 ポットからコポコポと、マグカップに湯を注いでインスタントコーヒーを作っていた。 無糖、ブラック。 ただ黒一色のコーヒーが、小さな泡達と共にカップの中で静かに回転する……。 上がってくる湯気と共に匂うほのかな薫り。 「苦い」 彼はコーヒーも飲まずにそう呟いた。その顔実に無表情。 髪の毛は灰白く、全体的に下方向へ流れ少し跳ねている。 顔立ちは、整っているが少し痩せており、肌は病的な白さがある。そして鼻は高く、細目で睫毛が長い。 纏めると、無表情でその綺麗な顔は冷めていた。クールとも言えない、何の興味もなさそうな雰囲気。 そんな彼は、少し歩いてはガラスのテーブルにマグカップを置き、その側にある高級そうな白いソファーに腰掛けた。 部屋の時計を見ると時刻は夕方、5時42分。 おそらく仕事から帰宅したばかりなのだろう。着ているワイシャツのボタン一つを外し、ネクタイを緩めた。 「ふぅ……」 後ろにもたれながら溜め息をつくと、彼は右手を顔の前に持ってきた。 その右手にあるのは、いつも彼が〝主役〟と称するガムシロップ。それを―― 唐突に? 不意に? それともごくごく普通に? いきなりコーヒーと出くわせる?  そんな物語なら、最後に黒は〝甘さ〟に負ける。 〝黒〟とは、気付かれないから、何も受け入れないから本当の黒なのだ。 故に、そう理解してる彼は今日からガムシロップを入れない事にした。 そして、その右手にあるガムシロップを―― 「エリミ・ネイト【排除】」 ……彼の黒い幕は開かない。上がらない。 「京の都は昔から自然災害が少ないらしい。色々仮説を立てる者もいるが。まさか、特異が根源とは誰も知るまい……では、 第一手――〝残酷〟」 誰に言う訳でもなく、彼はそうやってコーヒーを飲んだ。
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