19人が本棚に入れています
本棚に追加
――京都――
ここは四条河原町近く、常に人が多く行き交っている。
天気は晴れだ。程よい陽射し、蒼い空に所々浮かぶ雲が乗り物みたいに見える。
鴨川の歩道に並ぶ木がピンク一色に。風が揺らし、ヒラヒラと舞い散る花びら。落ちると、その側にある花達、緑も風で歌っていた。
それら全てが季節を春だと教えてくれる。
のほほん
としたそんな中、一人の青年の声が聞こえてきた。
「特異能力……イマイチパッとせえへんなぁ」
日々葵 響だ。
響は逸切に言われた事が頭に残り、少し考え込んでいた。
「第一特異能力なんて言う奴おらんやろ、普通特殊やろ。意味的に言うたら特異の方が掛け離れとるが……だから何やっちゅうねん」
響はさっきから携帯を開いてはイライラしてる。待ち合わせをしてるのだ。
いつも通り服装変わらず、外見変わらず。彼は鴨川のベンチに座っていた。
「……チッ、アイツどんだけ時間にルーズやねん! あと5分待って来(こ)うへんかったら鴨川で釣りしたる」
どうやら彼は釣りがお好きらしい。
響が見据えた先には、鯉が優雅に泳いでいた。その風貌は流石川の王者、黒の魚体に黄金色が微かに混じっている。
その太く逞しい体で発揮される凄まじいトルク、それが釣り人を魅了するのだ!
……物語に何ら関係無い。
「……………………………………………………………………………………」
響は鯉をしばらく見た後、携帯をもう一度見た。
「アカンわ~、あいつにルーズソックス履かしたらなワイの気がす・ま・ん・わぁ~……ルーズだけに」
誰もいないから、最後はきちんと自分で締める。響は几帳面だ。だがその声には力が篭っていた。相当お怒りの様子。
――と、そこへ。
響の元へ近寄って来たのはスーツ姿の男。
「悪いっす、遅れちゃいました」
「選べや――
響と釣りをする。
響に食べ物を奢る。
響と喧嘩する。
どれや?」
響はその男を見もせずに言った。
最初のコメントを投稿しよう!