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千律。そう、男の名前は京矢 千律(キョウヤ センリ)
響と同じように、いつも好んで白いワイシャツに黒いスーツを着ている。
顔はキリっとラインがしっかり、綺麗に整えられた眉毛に鼻は高く、目力があり眼光が鋭い。肌の色は少し濃さがあるのが伺える。
そして、丁寧に手入れされているであろう黒髪は、ワックスで綺麗に整えられたウルフレイヤー。
おまけに、180㎝はあろう長身、体型はスリム。
結果――格好良い。
彼は18歳だが実に顔が大人びていて、外見上ホストによく間違えられる。
……彼の外見は響の妬みの元でもある。
そんな彼等の接点は過去の経歴、それにより千律は響を尊敬している。
響とは親友関係。
「では邪悪とは?」
長い沈黙を破り、千律はチラリと真剣な顔を響へ向ける。
「お前なら分からん訳ないやろ? 誰かに自分の持つ意味をぐらつかされたんか?」
「…………」
千律は何も言わない。
響は見兼ねて。
「ほな答えたるわ。
こいつありへん。
こんな事を人がしよるんか?
何でコイツは平然としていられる?
吐き気がする〝嫌悪感〟
圧倒的な〝恐怖〟
存在を受け入れたくない、それが――〝邪悪〟や 」
突如吹いた春風が、響の重い言葉を連れていった。
千律はそれを見つめるように、まだ聞く。
「アンタは、それに出会った事があるのか?」
「あるよ」
舞い散る桜の花びらを見ながら、響は何の躊躇いも持たない子供のように言った。そして続ける。
「実際はそうならん。やけどな、心を侵されるんが、心が黒く変色するんが嫌でも分かる。
テンションもくそもない、まともな神経やと立ち合えへんわ」
それを聞いた千律は生唾を飲み込み、答えを聞く。
「それは、どんな奴だったんだ?」
「……人間や。同じ人間……」
またもや吹いた春風、今度は重過ぎて響の言葉を連れて行けないようだった。
言葉はそこに残り、一人の男を本題へと押し上げたからだ。
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