憂鬱な世界は始まる

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「日々葵 響(ヒビキ ヒビキ)ワイの名前や。出会うた時からずっと互いに聞いたとらんかったからな」 ダメ人間は立ち上がり、パンパンと尻を払う。 「夜乃内……逸切(ヨルノウチ イッサイ)それが私の名前だ」 何故か、ホームレスが名前を言う時、空けた間――〝間〟が、少し躊躇われたように感じた。 「まさか、今日でお別れなるとは思わんかったが…………ほな、さいなら」 ダメ人間は右手でピストルの形を作り、冗談っぽくホームレスへ撃つ仕草を見せた。 「ああ、君も元気でな」 ホームレスも同じく。 互いに詳しくは聞かない、そんか関係だった。 そして、ダメ人間はその場所から離れ、夜の闇に消えて行く。 ホームレスは、その姿が見えなくなる迄見つめていた。 「君は……惜しい素材だった。憂鬱のくせに、特異を拒み続けた。そんな君に。日々葵 響に………… 私の創った世界を魅て貰おう。憂鬱に――……」 ホームレスもとい、 〝夜乃内 逸切〟 彼は既に、特異の実現を成功させていた……。 十年前の産物と日々葵 響。 ただどちらが正しいかを観たいが為に、物語は歩み出す。 男の夢は、特異という力に溺れて野望になったのだ。 そしてまずは―― ……街を……。
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