始まり

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僕はひたすらに坂道を駆け上る。 今日は酷く暑い。 いや、夏は何時もこんな感じかな? 「おっそいよーー零!」 遠くで、誰か叫んでいる。 多分命だろうな。 僕は慌てて走る速度を速めた。 「ご、ごめん。ハアハア……疲れた」 僕は膝に手をあて、体を曲げて肩で息をする。 「おっそーい! 何してたの!」 命は僕に向かって大声を出す。 命は茶色がかった髪をショートカットにして活発な印象を受けた。 肌は日に焼けて浅黒くなっている。 「しょうがないだろ。命。僕、家ぬけだすの大変なんだからな!」 僕は命に向かって遅れた理由を説明した。 「分かった。分かった。んで、例の物は?」 その理由を良く知っている命はそれ以上何も聞かないでくれた。 有り難う命。 「ああ。持って来たよ」 「んじゃ、中に入ろう。二人ともまってるよ」 二人っていうのは僕の幼なじみ。 命も含めてね。 「ああ」 命に続いて玄関のドアをくぐろうとしたら、突然変な音がした。 空間が歪む音。 それと同時に、見知らぬ景色が、目の前に映って見えた。 驚いて瞬きをしたら、普段よく見る住宅街に戻っていた。 「な、何だったんだ……今の……」 僕は驚きを隠せない。 「零? 入らないの?」 「ああ、今入るよ」 今のは何だったのか…… そう思いながら、僕は命に続いて玄関のドアをくぐった。
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