文久三年【初夏】

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    静まり返る街中 ピッと血切りをした私の刀は地面に紅の一線を引いた 諸車に一閃、胴体切断 新見錦 文月某日不逞行為に依り斬殺 死ぬはずの人間が永らえ 生きるはずの人間が死んだ 私は刀を納めると振り返り近藤さんと土方さんの前に立つ 「八千流をお願いします」 二人は凍り付いた瞳で私を映していた、決して見ている訳ではない、映っているだけで認識していないのだ 分かっていながら私は土方さんに刀を押し付け隊士達が開けた道を通り八木邸へ向かう 「待て本庄…お前、何をした?」 土方さんは目の前で起きた出来事すら否定した 「新見錦を斬りました」 「お前がやったんだな?」 「間違い無く私がやりました」 「人を斬った事があるのか?」 「いいえ、生まれて初めてです」 「何故、そんな顔をしている」 漸く土方さんが呼び止めてまで話だした意図が分かった 「一殺多生なんて事は言いませんが郷に入っては郷に従え…蛇の道は蛇でしょう?土方さんだって気付いていたでしょうに人が悪い」 土方さんは気付いた私の言っている蛇の道が 六車宗伯の一件と そして確信したのだろう 私が危険であると だけど、まだ足りない 早く気付いた方がいい 足元で絡まる鎖に 誤って踏めば命は無い…新見錦の様に 新見は迂闊に近付き過ぎて鎖を踏み音を立てた その鎖に何が繋がれているかも知らずに
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