文久三年【初夏】

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    歩きだした私の左腕を沖田さんが掴む 「何処に…行かれるんですか?」 「何処って、邸に帰りますよ」 「前川邸ですよね?」 「八木邸です」 私は沖田さんの手を解こうとするが全く解けない 「何言ってるんですか?」 「私は今、八木邸で芹沢筆頭局長の小姓をしています、八木邸に帰る事に何の不思議もありませんよ?」 「新見局長を斬って本庄さんが無事で居られる訳が無い!!それくらい分かるでしょう!!」 沖田さんは片手で私の左腕を掴み反対の手で着物の合わせを掴み上げた 「私は何も悪い事などしていません、今夜の事も帰り次第全て有りの儘をお話するつもりです」 私は無表情で沖田さんの手を払い除け再び歩きだす 芹沢を斬るまで戻らない 八木邸に戻り芹沢の部屋へ行った 「夜分失礼つかまつります、本庄でございます」 声を掛けると意外にも返事は速かった 「本庄君?入りたまえ」 中に入るとお梅に酌をさせ行灯の薄明かりの中、芹沢は酒を呑んでいた 「夜分遅く申し訳ございません」 「いい、何用かね」 「はい、つい先程壬生浪士組局長新見錦殿が死亡致しました」 私は正座して両手を付き頭を下げて話すと目の前にお猪口が転がり落ちてきた 「本庄君、酒が不味くなる詰まらん事は言うな…もう一度聞く何用かね?」 「もう一度申し上げます、つい先程壬生浪士組局長新見錦殿が死亡致しました」 カチャ… 「何故?」
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