文久三年【初夏】

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    抜刀する独特の刀と鞘の擦れる音が頭上で聞こえた 「浪士組隊士に対する不当な抜刀行為及び闇討ちです」 「何だと!?粛清か!?」 「左様でございます」 「一体誰が斬った!!」 「私、本庄祿が」 いきり立った芹沢は顔を上げた私を見て固まった 「君が?君が新見を?」 「左様でございます」 「はっ…ははっははははっ!!なら何故戻って来たのだね!!」 芹沢は突然大声で笑ったかと思ったらそのままの声量で質問をぶつけてきた お梅は怯えて部屋の隅まで下がっている 「私が壬生浪士組筆頭局長芹沢様の小姓だからです、他に何の理由がいりましょう?」 次の瞬間、芹沢は刀を持った右手を顔の高さまで振り上げた ブンッ!! 振り下ろされた刃は私の頬にピタリと触れて止まった 「何故逃げないのだね?」 「私が逃げ仰せなければならない理由が無いからです」 芹沢は顔の高さまでしか腕を振り上げなかった もし、頭の高さまで腕を振り上げたなら私は飛び退いていた この男の癖だ フェイントを掛ける時僅かに振り上げる腕の高さが下がる こんなもの見破られたら命取りだ 「もういい下がりたまえ、明日近藤君達とも話してくるから昼に起こしに来るように」 「畏まりました」 私は静かに戸を閉めて自室の離れへ戻った
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