文久三年【初夏】

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    「………はぁ」 私は部屋の戸を開けてため息を吐いた、別に芹沢に緊張していた訳では無く目の前の光景が今夜の疲れを倍増させたのだ 「野口殿…何をしておいでですか?」 「っひい!?…ほ、本庄!!」 余程ぼんやりしていたのかそれとも寝ていたのか私が戸を開けた事にも気付いていなかった様で声を掛けると後ろ姿の肩が面白いくらい跳ねる 「此処は私の部屋ですが」 「貴様何故部屋を出た!!今まで何処に行っていた!!」 野口は私を部屋に引き摺り込むと戸を締め怒鳴った 「街へ」 「出るなと言ったはずだ!!まさか新見と会ってなど…おい、なんだこの臭い…貴様、街で何をしてきた!!」 野口は私を掴み寄せ着物や首筋に顔を寄せて臭いを嗅いだ 鉄の様な生臭い臭いがしたに違いない 「人を斬って参りました」 ドンッ 突然突き飛ばされ私は尻餅をついて野口を見上げた 「何故斬った…何故私との約束を破った……何故赤沢を…」 やはり野口は全て知っていた、今夜新見が赤沢を殺すつもりでいた事を 実際史実では、赤沢が死んだ事を近藤さんに観察方よりも速く知らせたのが野口だった そして、事が露見し九月に新見は切腹している赤沢守人の遺品である大刀で 「野口殿、何か勘違いをされています。私は赤沢などと言う者は斬っておりません」 「なん、だと?…ならば一体誰を…」 「新見錦殿です」
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