文久三年【初夏】

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    「野口殿、さすがに起きて頂けないでしょうか…」 正直重い この男、何の遠慮も無く全体重預けてきやがる 「…ふざけるな……ふざけるな……私が貴様など心配する訳が無い!!」 ガバッと顔を上げた野口は泣いてはいないものの眉間に皺を寄せ目尻を下げていた 「約束を破って申し訳ありませんでした」 「当たり前だ!!もう二度と破るな!!絶対許さんぞ!!私がどれだけ…畜生……畜生」 そう言って又野口は倒れてきた 起きろよ…とは言わなかった その後、やっと落ち着いた野口は顔を真っ赤にして起き上がると散々私に罵声を浴びせて部屋を出ていった 「なんで私が怒鳴られるんだ」 愚痴りながら羽織を脱ぎ袴を解いて着流しに着替えて眠りに就いた 翌朝、朝餉が終わり昼まで予定も無く庭先でぼんやりしていた カサリと庭の端で音が聞こえて向くと なんか、野良猫に餌をやったら懐かれた様なそんな気分だ 「おはようございます野口殿」 「っ!?」 「隠れてないで出ていらしらどうですか?」 声を掛けるとしかめっ面で庭の端からそっと姿を現した 「どうされました?」 「私が居たら迷惑か?」 「そんな事は申しておりません、お座りになられたら?」 フンッと鼻を鳴らして不機嫌に隣に座る野口になんだか透と似ていると思った 憎まれ口を叩きながらも行動は素直で直情型だから少し乱暴だ 「何を笑っている?」 「いえ、思い出し笑いです」 「不躾な女だ」 「すみません」 やっぱり私は笑ってしまったが野口は目を眇めるだけで立ち上がる様子は無い 久々に笑った 少し落ち着いた
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