文久三年【初夏】

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    芹沢と共に門を出ようとした時だった タンタンタンタンッ!! かなり短く高い足音が道場の方から響いてくる もう癖になったのか… 懐かしい気がする 居合い呼び風が出来る様になった中二の頃から透の歩き方が少し変わった 爪先に力を入れ爆発的な瞬発力を要する呼び風、慣れるまで足が吊る程修練をしなければいけない為、踵を浮かせて爪先だけで歩くのが癖になりやすく自然と歩行速度が速くなる 門を抜け一つ目の角を曲がった時 私を呼ぶ擦れた透の声が聞こえた 隻眼になってから聴力が良くなった 芹沢は全く気付かず前を歩く 今すぐ首を刎ねてやりたい そして 早く… 早く、透に逢いたい もう少し、もう少し待たなければ まだ足りない、まだ足りない 私は鬼だ もう、人には戻れない でも、透の所に戻りたい その為ならば、鬼をも殺す 透が傷付かずに済むならば 地獄も極楽と笑ってやる だから…だからどうか 私から透を奪わないで下さい
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