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邸に戻ると、とうに日は暮れ宵の明星が輝いていた
離れの私室に向かうと部屋の前の縁側に人影が見えた
「…風邪ひくっての」
野口は柱に凭れて眠っていた
別に左腕が動いたってこんな長身の男を支えられる訳も無くまだ夜が来ていないので部屋を開けて柳行李から羽織出して野口に掛けた
性格やら態度やらに少々難点は見られるが憎めない
野口の隣に腰を下ろしてため息を吐いた
「私の傍でため息を吐くな、縁起の悪い女め」
この野郎…起きてんじゃねぇか
「起きていらっしゃったんですか?私だって疲れてるんですよ…」
「道理で醜い顔をしている訳か」
言いたい放題言いやがって…
「私など元より善いものではありませんから」
「そうだな」
てめえ
「幾ら夏とは言え風邪を召されます、お部屋へお戻りになられたら如何ですか?」
バシッ
苛々し話を変えようと野口に問い掛けると平手打ちが頭に降ってきた
「本当に醜い顔だな」
流石に私だってキレる
私は立ち上がりそのまま部屋へ上がろうと右手を着いた
パンッ
ガツン!!
「…っ!?」
支えにしてた右手を払われ床に頬と頭を打ち付けた
「………」
野口は無言で私を馬乗りにして唯一動く右腕を床に縫い付けた
暑いし見たくもない死体を見せられ嫌な奴と話をしてきて疲れてるのにこの仕打ち
野口が右手を振り上げた瞬間
私は掴まれた右手を更に掴み返し腰に力を入れて右足を胴ぎりぎりまで引き付け踵で野口の太股を思い切り蹴り落とた、その踵をそのまま縁側の縁に掛けて左足を振り抜く
野口はいとも簡単に宙を舞うも、私が左手を掴んで脇腹を蹴り飛ばした為にすぐ左側の柱に体を打ち付け仰向けに倒れた
私は悠々と起き上がり野口を馬乗りにして両膝で腕を押さえ付けた
「私は今、虫の居どころが悪いのです」
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