文久三年【夏之壱】

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    立秋を迎えた次の日だった 「本庄君出掛けるぞ」 「畏まりました」 今日も灼熱照りつける盆地の京を出歩こうと言うのは当然芹沢だ この男、体感温度なるものが無いのか? それとも現代っ子との根本的な体造りの差か? 今日は水色の着物に灰鼠の袴を着ている 暑いから気持ち涼しくしたかったんだよ!! それ位暑いんだよ!! 新見が居なくなってからも芹沢だけは何も変わらなかったが平間も平山も明らかに私を遠巻きにするようになった 野口は変わらず芹沢の傍を離れず私を視界には入れない 「本庄君、心太は好きかね?」 唐突に芹沢は振り返った 距離は約五畳と一団体に歩くにしてはかなり離れ過ぎていたが先頭の芹沢は最後尾の私に問い掛けた 「越後と京では心太の食し方が違うと聞いております…京で心太を頂いた事がございませんので分かりません」 少し声を張って返すと芹沢どころか皆が不思議そうに私を見ていた 「じゃぁ今まで一体どうやって心太を食べていたんだね?」 芹沢達も自分達の食べていた物しか知らなかったのか興味を惹いたらしい 「越後では醤油や醤油に酢を入れた物を一般的に心太として食べますので夕餉のおかずです」 平成では結構有名な話だ、甲信越では醤油や酢醤油が一般的だが関西では黒蜜、他の地域では鰹出汁や砂糖と言う所もあるらしい 「おかず?心太は菓子の様な物だろう?」 平山は全く想像もつかないのか顔をしかめた 正直私は酢の物が得意ではない為心太が余り好きではなかったから平山の気持ちが分からない訳では無かった
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