文久三年【夏之壱】

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    「芹沢は分かっている…だから私に赤沢を託した」 「分かっているとは?」 「芹沢は本庄…お前を連れて赤沢の所へ行けと言った……新見の時にもそう言った」 「そんな…馬鹿な…」 「私はもうこの場所には居れない」 「何故ですか!!芹沢は新見を私に斬られて分かっているはず!!なのに何故同じ事を野口殿にさせるのですか!!」 「今言っただろう…もうこの場所は私の居場所ではない」 芹沢が野口を切り捨てた 「私は逆らえない、七日後の晩、赤沢の所へ行く…場所はあの場所だ」 野口の言っている事は分かる 七日後の晩、自分が赤沢を斬る前に私に自分を斬らせようとしているのだ 「分かりました…野口殿の御覚悟聢と承りました」 「いいか…私が居なくなったら帰るんだ、必ずだぞ…もう…もうお前が泣いても私は何もしてやれないからな…お前は待ってる奴がいるんだ必ず生きて帰れ」 「野口殿の御覚悟しかと承りましたが承服し兼ねます」 悔しくて悔しくて堪らなかった 「分かれ!!!!お前が芹沢を受け入れない限りお前は殺される!!だが、受け入れるなど私は断じて許さんぞ!!!!」 野口は上体を起こすと力の限りに私の顔すれすれに畳を殴り付けた 「受け入れません!!私はあんな男の示唆する明日など死んでも嫌だ!!だから野口殿が死ぬなんて認めない!!」 私は目の前の野口の胸ぐらを掴んだ ぽたっ…ぽたっ 小さな小さな重い雫が私の頬を濡らす 「野口殿…私が貴方の居場所を奪ったのです、ならば私が貴方の居場所になります……だからお願いです、八日後の朝必ず私の所へ生きて帰って来て下さいませ」
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