文久三年【夏之弐】

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    本庄祿は走り続けた まるで影や闇、黒を求める様に走り着いたのは朽ち掛けた社だ 本庄祿は迷わず裏手に駆け込み無人を確認し袴を解いた 傷を確認すると骨まで達していないながらも競り合いを押し返すだけの力を込めたのだ白い脂肪が見えていた 肌着を裂きたすき掛けの様にきつく巻き付けた もう一度着付け菊一文字八千流を抜いた 「一ヶ月…私は歴史を一ヶ月塗り替える」 芹沢鴨は九月十八日に死ぬ 今日は八月十八日 明日どうなるか分からないなどよく言った物だろう ずっと本庄祿は思い詰めていた 歴史の詳細には異説が多くその史実内容は曖昧で明確な物は無い、人の死の詳細に差異があろうと明るみになりづらい だが落命の日は確かな形で残っている、書物や墓石となって百五十年先にまで明確だ それが変わる時、日本は本庄祿の知る平成の世界を迎えられるのか 確かに本庄祿は悩み九月を待とうとしていたが 「もう…限界だ」 梅雨には大阪で一騒動起こし先週は大和屋を焼き討ちにした 赤沢守人を狙った直後新見の死と一緒に芹沢の非業は松平容保の耳に届き暗に消せとの仰せが出ていた 本庄祿の呟きは歴史と未来への不安を超える憤りに覚悟を決めた物だった
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