文久三年【夏之弐】

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    「夜分失礼つかまつります」 スッと障子が開くと芹沢鴨が部屋の中央でゆったりと肘掛に寄りかかり本庄祿を見ている 障子の傍には平間重助と平山五郎が控え立ち膝で刀に手を掛けている 「何かね?本庄君」 「お一つお聞かせ願いたく候」 本庄祿は庭に方膝を付き真っ直ぐ芹沢鴨を見る 「どうしたんだそんなに改まって、一体何を聞きたいのかね?」 芹沢鴨は全く訳が分からないのか訝しげに本庄祿を見ている 「芹沢様の誠とは何処にございますか?」 「何?」 「二度も同じ事を言わせる馬鹿は好きじゃない、あんた如きに誠があるかって聞いてんだよ」 突然立ち上がる本庄祿は全くの別人の様に瞳が芹沢鴨を射抜いた 「貴様何のつもりだ!!」 僅かに平山五郎の顔が左に傾き鯉口を切る 「目っかちの五郎…その癖を直さない限りあんたは居合いなんてとてもじゃないが無理だ」 本庄祿は目にも止まらぬ速さで平山五郎の目の前に低く構え一気に鞘から刀を抜き上げ右脇から左肩に一穿振り抜いた ズルリと泥水が滑る様な音と共に平山五郎の胸から上が右にずれ落ちた ドス パンッ 鈍い音と乾いた音はほぼ同時に部屋に響く 平山五郎とは反対の障子の傍にいた平間重助の眉間から一筋紅い線が引かれる 「いやぁぁぁぁぁぁあ゙あ゙ぐが」 凄まじい悲鳴が絶命を招いた 平間重助の眉間を貫通した刀は障子の木枠も討ち貫いた 本庄祿が振り返ると芹沢鴨の刀からは深紅の雫が滴り落ちてお梅の鼻から上は床の間に転がっていた
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