文久三年【夏之弐】

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    キィン!! シャン!! 高い金属音はとても短く何度もぶつかり合いをする 芹沢鴨は本庄祿の刀を見るのは初めてな筈なのにまるでその刀の意図を知るかの様に競り合いを拒み弾き返す 「やはり強いな君は」 「………」 芹沢鴨の言葉に本庄祿は全く反応を示さなかった 「どうしたのだね本庄君、祇園の時よりも押しも速度も落ちてるでは無いか」 「………」 ニタリと薄気味悪い笑みを浮かべる芹沢鴨に本庄祿は僅かに刀を握りなおすだけで何も言わない 「今日は私の話し相手になってはくれんのかね?」 「………」 悟った様な芹沢鴨の言葉は間違い無く本庄祿の気性を逆撫でした シャァン!!!! 一際高鳴る刀 約三畳、本庄祿は芹沢鴨の左膝辺りに滑り込み刀を旋回させ逆手に持ち代えると祇園の時の様に体を振り抜いた 芹沢鴨は強烈な突きを受け止めるも部屋の奥へ跳ね飛ばされた 「ぐっ…」 「刀を握ったら口は閉じろ、不愉快だ…私は遺言を聞いてやれる程お人好しじゃない」 其の声に人間味のある体温は感じられなかった 「此れが君の本当の姿か…」 よろめく芹沢鴨の表情は恍惚として既に狂喜に呑まれて死の恐怖は麻痺している 「下らない…何が忠義だ何が誠だ…言ってみなよ、欲しいものは何?」 「君だよ…私は君が欲しいのだよ本庄君!!金も邸も刀も君が欲しい物は何でも与えよう!!」 狂っている 本庄祿の口端はゆっくりと吊り上がる 「私の…欲しい物?」 「あぁ!!何でも与えよう!!」 ミシッ… 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」 軋む様な音から遅れる事数秒 芹沢鴨の絶叫と本庄祿の怒号が八木邸内に響き渡る 「嘗めるな!!!!お前如きが私を満たせるだと!?馬鹿にするのも大概にしろ!!………そんなに私を喜ばせたいなら自分でその首を刎ねろ」 本庄祿の右足は芹沢鴨の左手を踏み砕いた 激昂し大きく呼吸を繰り返す本庄祿の息遣いは些か不規則過ぎるものだった
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