文久三年【夏之弐】

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    不意に本庄祿の殺気が揺らぎ身体が支えを失う様に傾いだ ズリッ ドサッ!! 「ゴホッ……カハッ‥アッ」 一瞬の隙を突いて芹沢鴨は本庄祿の右足を掴み力任せに引き倒した 俯せに倒れた本庄祿に圧し掛かり着物の衿を引き上げる 「君が欲しいのだよ…」 喉が締め上げられ酸素は足りず本庄祿の視線は不自然に宙を彷徨い右手の爪は畳を掻き毟り剥げる 「君を誰にも見せたくない…」 まるで譫言の様に芹沢鴨は言葉を発して左腕を本庄祿の首に巻き付ける 「あの若造に何をされたんだね、祇園以来夜、島原に姿を見せない…絆され暴かれたかね?」 芹沢鴨のお梅の返り血で斑点に染まった右腕は本庄祿の袴を意図も簡単に解く 平成では袴は着物を絡げて袴を履くが江戸時代は下ろしたまま袴を履いていたとは言え膝から下、細く白い足は著わとなった 「ああああぁぁぁああ!!!!」 本庄祿の意識は飛び掛けていた 心臓を患っている事が発覚してから発作を起こす度に飲んでいた薬 もう何年も発作は遠退いていた 油断していたのだ 心臓の一部が欠損した状態で産まれた本庄祿は血液循環が悪く体内機能が低下しやすく、肉体が心臓を第一に機能させようと他の器官を取捨選択してしまう その為に右目も視力を失った それを避ける為に合同の公式試合にも二年に一度しか参加せず 道場でも手合せによる指導を出来るだけやらなかった だが半年、幕末の江戸時代に来て本庄祿は動き過ぎた 他人の命に気を取られ 自らの命を顧みる事を惰った 倒れた時に手放した菊一文字に後僅かに一寸手が届かない
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