文久三年【夏之弐】

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    「新見が死んだのは予想外だったよ…だが、君が居てくれるなら新見など要らぬ」 伊達巻は解かれ、二本の細紐も残り一本 「野口…若造の癖に、口達者で私から君を遠ざけようとしおった」 「…ゴホッゴホッ…な、い…」 血だらけの右手は未だ諦めずに畳を掻いた、本庄祿は沸き返る怒りに声帯を震わせた 着物を絞める紐は全て解かれ右肩から背中の半分が月夜に曝された その白く絹の様な肌は歪な引き吊れた跡がくっきりと残っていた 「今何と言ったのだね……この背はなんだ…まるで拷問の跡ではないか…」 拷問 その単語に間違いは無い 浪士組の拷問を受けた跡は本庄祿の背にまざまざと残っていた 「まだ生きて、いる…野口を、死なせない……新撰組を汚させない!!」 カシャン… ブツッ!! ゴトッ 芹沢鴨が本庄祿の着物を剥ごうとした 刹那 左腕の戒めが弛み本庄祿の右手は菊一文字を繋ぎ留めた 迷わず自分の首に菊一文字八千流の峰を滑らせ 一気に芹沢鴨の首を引き刎ねた 本庄祿の頭に落とされた芹沢鴨の頭がぶつかり左肩の傍に転がる 生暖かく鉄臭い体液が降り注ぎ頭から紅に染まる 引き刎ねた菊一文字八千流は勢い余り床の間の柱に深く喰い込み立ち上がらなければ抜けそうに無い ドスン 発作と呼吸困難を起こし弱った本庄祿の背に頭を無くした芹沢鴨の肢体が倒れ覆い隠した とてもじゃないが今の本庄祿に芹沢鴨の肢体を除ける力は残っていなかった 突如…ザワリと本庄祿の落ち掛けた意識を冷たく重い誰かの意識が無理矢理引き上げる 本庄祿は必死に菊一文字八千流を引き抜こうとする 本能が警鐘を打ち鳴らす 殺される、と
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