文久三年【夏之弐】

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    どんなに引こうが叩き上げようが菊一文字八千流が抜ける事は無かった 室内は既に殺気で満たされ生きた心地は皆無 誰がこの部屋に近づいているのかは分からないが一人ではない、徐々に足音が聞こえるまでの距離になっている 本庄祿は動くのを止め息を殺した 庭まで来たのだろう、誰かが息を飲む音がはっきりと聞こえた 気配を消し鯉口を切る誰か ドンッ かなりの衝撃の後身体が軽くなった瞬間 ガツッ!! ガシャン!! 「ゴフッ…ゲホッゴホッ」 本庄祿は振り下ろされた刄を死に物狂いで躱し柱に喰い込む菊一文字八千流の刄を足で蹴り外す 足の裏が抉れたが力を込めて踏み留まり刀を構える 月明かりは逆光で目の前の人間達が誰かよく分からない 振り抜かれた刀を受け止めたが軽々と身体は吹き飛び隣室とを隔てる襖に激突する 本庄祿はズルズルと畳にひれ伏し刀を握る誰かをやっと見上げた 「…ほ……本…庄、さん」 彼はとても本庄祿を気遣ってくれた沖田総司だった 沖田総司も又、驚愕の余りに色を無くし立ち尽くしていた 残虐非道としか言い様の無い惨状の血塗れの生き残り敵も味方も分からず死んだ振りをされ敵と見なした しかし、自分の刀を受け止め倒れたのは救出する筈の本庄祿だった
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