文久三年【夏之弐】

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    「本庄…お前、何が…」 月明かりに照らされたのは近藤勇、山南敬助、土方歳三、原田左之助だった 「原田君!!本庄君を担いで前川邸へ走るんだ!!」 咄嗟に声を張り上げたのは山南敬助だった 「はい!!!!」 原田左之助は本庄祿を抱き上げると一足跳びに庭へ駆け降りた 「私は……私は、違う…私が本庄さんを…」 「総司!!死体を確認しろ!!さっさと出るぞ!!」 沖田総司は本庄祿がぶつかった衝撃で割れ血が飛び散った襖を見つめている 近藤勇は素早く転がる首を掴み芹沢鴨を確認し山南敬助を振り返ると平山五郎を確認し終えた様だった 土方歳三は床の間のお梅を見てから未だ動く気配の無い沖田総司の肩を掴み痕跡一つ残さず前川邸へ走る 前川邸へ着くと丁度永倉新八が邸の奥へ水の入った盥を持って駆けて行く所だった 隊士達が使わない邸の最奥の一室、締め切られた戸の隙間から行灯の光が僅かに漏れている 別室から運ばれた布団に横たわる本庄祿は頭から血を流しているかの様に顔も身体も真っ赤だ 着物は開けて肌着を裂いて巻いたらしい包帯は無理矢理引っ張られたのか右肩の傷口に食い込み、喉は絞められた様で赤く腫れている本庄祿を見る限りでは何があったのか全く分からない 何故室内に本庄祿以外の生存者がいないのか 何故芹沢鴨の死体の下にいながら本庄祿は生きていたのか ただ芹沢鴨の首を見た近藤勇には何と無く分かった事がある 芹沢鴨には本庄祿を殺す気が無かった事 芹沢鴨が狂喜に呑まれた事 本庄祿が浪士組を守ろうとしていた事
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