文久三年【夏之参】

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    「本庄!!本庄しっかりしろ!何があった!!何処か斬られたのか!!」 本庄祿の覚束ない視線は突然大声を上げた土方歳三を捉えた 「何処も……土方さん、野口殿に逢わせて下さい…」 「何故ですか」 途切れがちに話す本庄祿の言葉に真っ向からぶつかったのは沖田総司だった 「私は野口殿と約束をしています…お迎えに上がらねばなりません」 「違うでしょう?野口さんじゃないでしょう?」 沖田総司は遠くを見る様な目で本庄祿を眺めた 「どういう事ですか…?」 「本庄さんが一番最初に逢わなければならないのは野口さんじゃないでしょう!!!!」 沖田総司は感情表現が無い訳では無い、だが…その表情が必ずしも彼の感情と合致するとは限らない 刀を握る事に何の抵抗も無い人間は己が信じる物の為ならば斬る事を厭わなければ何の疑問もない いつも信じる物の為に浪士組の隊士として生きている沖田総司にとって食事を摂る事や隊士達と会話をする事は人を斬る事と何ら変わらない だから、普段の柔和な表情と全く変わらぬ顔で人を斬る それが沖田総司と言う人間 その彼が今、必死に言葉にならない怒りや悲しみや後悔を伝えたくて本庄祿に縋り着く 伝え方も分からない自分が 腑甲斐無い自分が 助けてやれなかった自分が 本庄祿に刀を向けた自分が 情けなくて堪らなかったのだ
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