文久三年【夏之参】

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    「沖田さん、私が一番に逢わなければならないのは野口殿で間違いありません」 「何故ですか!!彼は芹沢さんの部下ですよ!!赤沢さんに刀を向けたんです!!なのに何故斬らなかったのですか!!」 一度箍が外れた感情は制御など難しく沖田総司は本庄祿の枕元ギリギリまで詰め寄った 「昨夜の時点で野口殿は芹沢鴨の部下では無かった、野口殿が刀を向けたのは赤沢さんではなく御自身です、野口殿には赤沢さんを斬るつもりは全く無かったのです」 一つずつ本庄祿は答えていくも疑問は生まれ混乱を極めるばかりだった 「そんなの分かりません!!それに一番に野口さんに逢わなければならない理由にならない!!本庄さんをずっと待っていた人が居る事知っていて何故ですか!!彼が…早阪君が可哀想だ!!」 握り締めた掛け布団の裾は皺が寄り俯き歪めた沖田総司の顔にはどうしても涙は零れなかった 悔しい 人の為に涙も流せない自分の想いが伝わる事は無いのだと しっかりと握り締め白くなった手に柔らかな白さを纏った小さな手が重なり弾かれる様に顔を上げる沖田総司 「沖田さん、私はこの半年…只の一度だって透を想わない日はありませんでした」 本庄祿の手を初めて見た こんなにも小さく白かっただろうか 本当にこの小さな手があの大太刀を握り人を葬ったのだろうか 「なら、どうして…一番最初に早阪君に逢いに行ってあげないんですか…」 沖田総司はそっと本庄祿の手に自分の手を重ねてみた 容易く包み込めすっぽりと隠れる本庄祿の小さな手 「此処が近藤勇局長率いる浪士組だからですよ」
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