文久三年【夏之参】

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    本庄祿は沖田総司の手を握ると曖昧だった視線をしっかりと据えた 「近藤局長、山南総長、土方副長、永倉さんや原田さん藤堂さんに山崎さん…そして沖田さん……皆さんが透の傍に居て気遣って下さったからこそ、私は安心して透を預けて居られたんです…私なりの全幅の信頼を置いてるんです…だからもう少し、私と透が共に居れる様に心を砕き身を粉にして守って下さった野口殿をお迎えに上がるまで透に我慢して欲しいんです」 沖田総司は呆然と本庄祿を見つめていた 自分の手に暖かい何かが落ちて初めて涙を流している事に気付いた 「あと、もう少し…透を預かって頂けませんか?」 「駄目など、言えるはず無いじゃないですか…」 沖田総司は俯いた 決して大きくは無い本庄祿の声 女性にしては少し低く落ち着いたその声音は一種の征服力があった 言うなれば… 絶対的な存在感に圧倒される そんな感じだ だけど、其処に恐怖は全く無く安心感さえ植え付ける 沖田総司は涙を流す自分が安堵を覚えている事を知り恐怖していた事を知った 泣きながら安心するなんて迷子の子供が母親を見付けて緊張の糸が切れた様なものだ 「あの時、沖田さんで良かった…きっと私は沖田さんじゃ無かったら殺していた」 「私は…本庄さんに刀を向けたんです」 「それでいいんです、怪しむべきは斬る…迷う位なら刀など棄ててしまいなさい清光は沖田さんの鏡、迷えば歯は零れ退けば錆びる加州の清光が泣きますよ」 本庄祿は部屋の雰囲気などお構い無しにおどけて見せた 「道理で私じゃ本庄さんの足元にも及ばない訳だ…」 吊られて困った様な笑みを見せた沖田総司に他の者も多少なり居住まいを和らげた
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