文久三年【夏之参】

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    「首が落ちた?誰が…斬った…」 永倉新八は震える手で本庄祿の左腕を掴む 「私です、命に従いました…殺しておいて言うのも難ですが、芹沢鴨は浪士組に必要でしょうか?」 本庄祿は誰とも目を合わさずただ前を見る 「命?何の話だ?」 土方歳三は有り得ない物を見ている様な顔で本庄祿を見る 「京都守護職松平容保の」 本庄祿はわざと敬称を略いた 「松平容保……公……何故お前が知っている?何故お前は御方を名前で呼ぶ…?」 「何故私が松平を敬わなければならないのですか」 本庄祿は睨む様に土方歳三を見つめた 「何故って…………!?」 「松平容保、官位正四位…私と同じ……忘れますまいな、私は公卿です…公卿でありながら徳川の狗、鎖で繋がれた狗なのです、迂闊容易く鎖に近付かれればこの牙を向きましょうぞ」 「公卿?…徳川の狗って、本庄お前何者だ!!」 大声を上げた永倉新八は本庄祿の両肩を掴む 「越後は中条…公卿藤原参議正四位中条資春朝臣、中条は古く藤原姓から養子を継いで出来た一族です」 「藤原!?」 言葉と共に永倉新八は本庄祿の肩を離した 藤原と言えば徳川将軍家初代家康公と同じ姓 だが徳川家康が藤原と言う血脈は無くその名を知らしめる為に藤原を勝手に名乗っていたとも言われている 「はい、これはまだ誰にも話していませんが中条は藤原の血を継いでいます、私は本庄家と中条家の間に生まれましたがこの乱世、わざわざ公卿を名乗って立場を悪くする者もいますまい、本庄家は元会津藩の内臣で今は徳川に直属で仕えています」 「御簾の向こうの人間かよ」 「引き摺り出され今は善い徳川の番狗ですがね」 「攘夷派か」 永倉新八は播州住手柄山氏繁二尺四寸に手を掛ける 「幕臣です、徳川幕府御側御用取次方隠密御庭番衆本庄祿」 本庄祿の手は刀に手を掛ける永倉新八の手に重なった
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