文久三年【夏之参】

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    本庄祿の話、野口健司の言動に少しずつ全容が見えはじめた これより深入りしてはならない事は必至 小さな組織は余りにも大きな存在と深く繋がれ切っても切り離せない程密接な物となっていた 「野口、お前は知っていたのか本庄祿の事を」 「名前以外何も知りません」 元は神道無念流同門の仲である永倉新八と野口健司、しかし脱藩の際に野口健司は芹沢鴨に付き水戸派として浪士入りした 永倉新八は芹沢鴨に過去、目を掛けていた芸妓の髪を斬られ芹沢鴨を恨み、そんな男に付いて行った野口健司を少なからず慮っていた 「そうか…」 永倉新八は野口健司が本庄祿の名前以外何も知らない理由を何と無く気付き自分が明かす必要は無いと判断し本庄祿の素性にそれ以上触れなかったし、野口健司も聞こうとはしなかった 「本庄さんが野口さんは芹沢筆頭局長の部下では無かったと仰いました…」 今まで見た事無い様な優しい表情と手つきで本庄祿を撫でる野口健司を伏し目がちに沖田総司は話し掛ける 「あぁ、私は昨夜芹沢鴨の部下では無かった…私の全ては本庄に預けてある、こいつが起きたら全て任せるつもりだ」 「芹沢はあんたを裏切ったのか?」 ずっと黙り話を聞き続けた土方歳三が口を開いた 「別に裏切られた訳じゃない…芹沢は本庄を見た日から狂いだした、本庄を手に入れる為なら腹心すら捨て駒にして切り捨てた…その中で私は偶然生き延びただけだ」 野口健司はその偶然を大切にし生き延びた ただ、野口健司は未だその偶然が平成の日本で国宝に指定された人間と大太刀だと言う事に気付いていない だからこそ生き延びたと言っても語弊は無い
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