文久三年【秋之壱】

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    毎日が長かった 日が昇り、日が沈む 時計と言う確かな物が無いこの世界、自分の手が闇に呑まれて着物を透かしてさざめく風が夜を教えてくれた 私はあの日から毎日、透の部屋の前の軒先に座っている 透は私の存在など気付いていないかの様に後ろを通り過ぎて生活をしていく 最初の頃は沖田さんや山南さん山崎さん達が私の所へやってきたが私はそれを断った 野口は私と二人部屋にと与えられた部屋で生活し永倉さんに教授を受けている様だった 秋空は移ろいやすく時々雨も当たったが私にはどうでもよかった 毎日毎日毎日 待ち続けた 透は知らないのだ 私が透以上に頑固であることを 誰と話すでもなく気付けば葉月は終わり長月になろうとしていた 早朝四時くらいだろうか彼は久しぶりに私の前に現れた 「おはよう、もう一月になるね、体調はどうだい?」 「おはようございます、発作は一時的な物なので治まれば当分は何ともありません、こんな早朝に如何なされましか山南さん」 「少し…君に聞いてみたい事があって、いいかな?」 山南さんはまだ何も話していないのに困った様な顔で笑った 「私に答えられるなら」 返事をすると山南さんはいよいよ俯き切なそうに眉を潜めた 「本庄君、誠とは何だと思う?誠とは一体何処にあると思う?」
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