文久三年【秋之壱】

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    暁に白んだ空に向かう様に山南さんは歩いて部屋へ戻って行った もうすぐ透の起きる時間 斜め後ろで障子が開き隊士達が出てくる それに合わせて透も部屋を出て食事に向かう 私はひたすら此処で待ち、透が道場に向かったら食事に行く様になった 「おはようございます、土方さん」 「………おう」 相変わらず低血圧で無愛想な男である 他の隊士とは時間をずらして食事をするのは私と土方さんだけだ 「又夜遅くまでお仕事ですか?」 「……あぁ」 土方さんはくぐもった様な相づちを打つ、疲れ切っているのは一目瞭然 「待宵が過ぎました十五夜ですよ、障子くらい開けたら如何です?どうせ煙管で煙たい部屋にいらっしゃるんでしょう?」 半ばからかう様に話し掛けると 「うるせぇよ、…長月か…俺ぁ十六夜の方が好きでぇ」 眉間の皺を濃くしてご飯を掻き込んだ 「本当に捻くれてますね土方さんて」 「ほっとけ」 十六夜なんて、風流だが彼の性分じゃないだろう…きっと今の気分て所か 「貴方が躊躇えば足並みが崩れますよ」 「分かってら」 「一層の事臥待月でも拝んだらどうです?」 「てめえ!!」 「ご馳走様でした、土方さんいつまで食べてるんですか?では、私はお先に」 「おい本庄!!………馬鹿野郎、俺が遅ぇんじゃねぇ…お前ぇが食わなくなったんだろうが」 私は土方さんがとてつもなく捻くれていて、とてつもなく優しい人だって知ってるから言いたい事だけ言って足早に部屋を出た 私を呼ぶ大きな声は芹沢と初めて立ち合った祇園を思い出させ、つい…らしくもない感傷に浸ってしまった
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