文久三年【秋之壱】

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    最近、あまり晴れ間を見ない 曇天は知らずと思いにふけり、いらぬ事まで呼び起こす 人殺し 平成の世界を生きる私達には考えられない非常識 極刑、著しくは終身刑 当然の償いだ お前が死ねば良かった どんな理由があろうと人を殺せる道理はない 人を手に掛ける位なら自分が消える 分かっている だけど、恐怖は付き纏う 死に対する恐怖 恐ろしくて堪らない 考えたくもない 私が居なくなった世界で 一体誰が透を守ってくれると言うのだ 「まだ、死にたくない」 口を突いて出た言葉は夕闇に吸い込まれた もう夕暮れ 一人で考え事をすると何時もこうなる 今夜は十五夜、満月 雲は冷たい夜風に凪ぎ払われ、その姿を曝した 美しいと思えなかった 天上から私達を見下ろし何もかも知った様な柔い姿で見守ってるつもりなのが腹立たしかった 見守るなんて何の救いにもなりゃしない 守りたくば見てる暇など無い この世界にはそんな生温い優しさなどありはしない 殺られる前に殺れ 奪われたくなくば奪うまで 攻撃とは最大の防御也 大切な物を失いたくなくば鬼と成れ
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