文久三年【秋之弐】

5/8

5136人が本棚に入れています
本棚に追加
/554ページ
    神無月を十日ばかり過ぎるといよいよ冬を目前に控えた 本庄祿はいつもと同じ場所に座っていたが既に自分の力だけでは体を支え切れず縁側の柱に寄り掛かっていた 元々背は高いが大柄ではない体格は痩せ細り以前より一回り小さくさえ見える 沖田総司と話してから何人かは本庄祿を説得に来たが頑として受け容れなかった 誰もが危惧していた 大変な事になるのではないかと もう、取り返しのつかない事になっているのではないかと その日は神無月に入ってからは珍しい見事な秋晴れだった 隊内は何時に無く和やかで前川邸の女将から頂いたと言う薩摩芋や栗や蜜柑を道場の前で焼いていた 「なぁ、これもう食える?」 まるでお預けを食らった犬の様にしきりに火の中の芋を突く原田佐之助 「それ入れたばっか、食いたいなら止めねぇけど」 呆れ顔で明らかに焦げ目の見当たらない芋を原田佐之助の目の前に転がす永倉新八 「永倉さんは手厳しいなぁ」 あっけらかんと笑いながらも焼き上がり格段に酸味の増した蜜柑を原田佐之助の目の前に置く沖田総司 「四面楚歌?」 そんな三人を横目にちょっと首を傾げ的外れな毒を吐く藤堂平助 「意味ちゃうやろ、それ」 我関せずとお茶を啜り生の蜜柑を食べる山崎烝 焼き芋の香ばしい匂いに誘われ隊士達は集まり始め、その中には柔術師範四番隊組長松原忠司と笑う早阪透の姿もあった
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5136人が本棚に入れています
本棚に追加