文久三年【冬之壱】

6/16

5136人が本棚に入れています
本棚に追加
/554ページ
    野口健司は早阪透を見つめたまま何も言えなくなった 「師匠は、強かった……俺が今まで見てきたどんな奴よりも強かった、今まで一度だって負けた事なんて無かった……でも、人を傷付ける事も無かった、誰よりも優しかった…返せよ、師匠を返せ、俺の師匠返せ!!」 怒鳴り声と共に立ち上がる早阪透は興奮状態に陥っていた 「……そうだ、私の所為だ…本庄が、新見や芹沢を斬らなければならなくなったのは私が居たからだ、私が生きたいと願ったからだ……でも、私もお前を許せない…何故もっと早く気付かなかった!!何故お前は自らの師を蔑ろにした!!何時何事在ろうともお前は本庄を手放すべきじゃなかった!!なのに何故本庄の言葉を聞き入れなかった!!」 贖罪の念に呑まれながらも納得のいかない本庄祿に対する早阪透の想いに理性は野口健司に木刀を構えさせた 「うるせぇ!!!!俺は…俺はずっと待ってた、師匠は必ず帰ってきてくれるって信じてた…なのに、師匠は……帰って来なかった!!あんなの師匠じゃない!!……もし、師匠があんな風に変わってしまったなら、俺があんたを倒して師匠をあの頃の師匠に戻す!!」 何の合図も無く早阪透は両手を大きく振り上げ一歩を踏み出す 「お前は何も分かっちゃいない!!本庄は変わってなどおらぬ!!!!今まで何を見てきた!!お前が信じた師とは何だ!!」 「黙れよ!!あんたに師匠の何が分かる!!!!」 打ち迎える様に上段に構えて大きく踏み出す野口健司 激しい打ち合い競り合いに何事かと駆け付けた隊士達は普段、隊内では物静かで素朴な印象の早阪透と寡黙な野口健司が怒鳴り声を張り上げ怒濤の様で木刀を振るう姿に唖然とした
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5136人が本棚に入れています
本棚に追加