文久三年【冬之壱】

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    怒号と共に打ち込まれる凄まじい斬撃の応酬は激しさを増すばかりで副長助勤伍長にも満たない隊士達が割って止められる様な稽古風情ではない 彼等の真剣ではないのが唯一の救いだった 騒ぎは直ぐ様邸内に広まり組長達が集まるが誰一人止めには入らなかった 「永倉先生!!お止めしなくていいんですか!?」 「………」 「全員、此処から立ち去りなさい」 何も答えずただ二人を見つめる永倉新八の隣に現れた沖田総司は有無を言わさぬ威圧で一歩ずつ退かせる 「出ていけと行ったのが分からないのか」 静かな声に聞き覚えの無い隊士は多かった 「斎藤…」 「さ…斎藤…三番組長……」 原田佐之助が相手を見る事無くボソリとその名を呟くと隊士達は我が耳を疑うかの様にその姿をまじまじと見る 木賊色の着物に黒の袴を着た長身痩躯の無表情な男だった 隊内一二を争う刀の使い手 居合いの達人 新撰組三番隊組長斎藤一 隊士達は滅多に見る事無いその姿と気迫、道場の迫力に気圧され組長が残っただけで全員隊務や私室に戻った その間も二人は全く押しも引きもせずに打ち合っている 「一さん副長は何て言ってましたか」 藤堂平助は当然の様に聞くと 「見届けよと…」 一言呟くと、道場の壁ぎわに正座で座る その時、早阪透が左脇腹を鋭く打ち込まれグラリと傾いた
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