文久三年【冬之壱】

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    野口健司にとって最大の好機にも関わらず素早く間合いを取る 「…へぇ、意外とやるじゃん野口君」 少しおどけたのは五番隊組長武田観柳斎、剣の腕も去る事ながら学に富んだ弁舌な軍学者だった そして、その言葉の意図は図らずも彼等にとって目を見張るものだった 早阪透は体を屈めて庇う様に見せ掛けた瞬間、木刀を持ち替え肘を高く引き寄せ一気に二段の突きを入れた 「野口さんは神道無念流目録を授かってますが実戦経験は高い」 「本庄君直伝でも一筋縄じゃいかねぇか」 沖田総司の話に頷く松原忠司 野口健司はずっと腰を落とし中段左寄りに構えている 早阪透は常に上段正面を譲らない 松原忠司は早阪透の柔術は見てきたが剣術はそれ程迄に見てはいない だが、分かる 早阪透の最大の武器 ただ一度、入隊の時の沖田総司との二回の手合わせで見た本庄祿 まるで同じなのだ 予測不可能に近い剣速 神業とも呼べる巧みな剣技 野口健司はもしかしたら早阪透に本庄祿を重ねているのかもしれない だから、極力間合いを取り長引かせ様とする 下手に近付けばあの恐ろしい速さで一薙にされて仕舞い 早阪透の上段正面の構えは只の罠だ
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