文久三年【冬之弐】

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    「本庄、もう少し休め」 低い声は本庄祿を気遣う様に聞こえた 「隊士が一人、袋小路に迷っています、早く迎えに行かねばなりません」 「お前、知ってるのか野口の居場所」 本庄祿の含む言い方に土方歳三は眉を潜める 「京は全て探しました、大阪もです、水戸藩にも要請しましたがいらっしゃらないんですよ」 沖田総司は手詰まりだと言わんばかりだ 「居ますよ、水戸はお優しい…学と刀、一度に両方も手に入るなら会津など怖くない……帰参を許すはずです……水戸もそんなに焦らずともよいのに」 本庄祿は早阪透の手を撫でながら最後は呟いた 「しかし、会津藩松平氏からの報せを何故…」 近藤勇が障子を大きく開けて入ってきた 「先を見越して…でしょうかね、水戸徳川家から将軍は出せない、ならば、最も有力な次期将軍家へ名を売らなければならない…そんな時に現れた本家徳川幕府お抱えの新撰組からの助勤の帰参申し入れ……良い話の種が出来たと思えば受けていて後の損にはならない、水戸徳川も新撰組を認めていると言う訳ですよ」 かなり端折って話してはいるが大まかにはそんな所だ 副将軍家とは言え水戸徳川家の家紋は裏葵御紋を正紋にしている為、実際は御三家から外され紀州家の分家として扱われ尾張家や紀州家の位とは掛け離れていたが、関八州や親王任国や高松藩を含む四つの破格の禄高を誇る藩が史系に居た為、御三家と表立って名を列ねていたのだ 「しかし、会津公では水戸藩とは言え徳川家にはこれ以上…」 近藤勇は眉間に皺を寄せる 「私が直参します」
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